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セクション3 山岸凉子

Theme 1 初期前衛作品から「アラベスク」へ

デビュー当初の山岸は、丸みを帯びた可愛らしい人物を描いていたが、「雨とコスモス」(1971年)頃より頭身が高く写実的な画風へと転換する。その変化は、当時の少女漫画の美意識から逸脱するものであり、読者や編集部の戸惑いも少なくなかったという。
同時期の「白い部屋のふたり」(1971年)では、女性同士の親密な関係性をフォーカスするなど、主題の面でも前衛的な試みが見られる。同年、『りぼん』10月号から初の長期連載となった「アラベスク」の執筆を開始する。
1950年代後半から1960年代にかけてバレエは少女雑誌において非常に人気なモチーフであり、すでに使い古されたイメージと見なされていたが、山岸は自身の体験をもとに、厳しい身体訓練を描いた本格的なバレエ漫画に取り組む。プリマドンナを目指すノンナの葛藤と成長は瞬く間に多くの共感を呼び、本作は大きな成功を収める。山岸は、バレエを「お飾り」の存在ではなく、真っ向から「芸術」として描ききった。

アラベスク

第1部『りぼん』(集英社) 1971年10月号–1973年4月号

第2部『花とゆめ』(白泉社) 1974年6月号(創刊号)–1975年11月5日号(22号)
ソビエト連邦下、キエフのバレエ学校に通うノンナは、高身長に悩み自信を持てないでいたが、ユーリ・ミロノフとの運命的な出会いをきっかけに生来の才能を開花させていく。激しい競争と芸術への情熱の狭間で揺れ動きながらプリマドンナへの道を駆け上がっていくノンナの成長を描いた本格バレエ漫画。

ミスめがねはお年ごろ

『りぼんコミック』(集英社) 1970年2月号

近藤咲子は亡き父の友人に引き取られた。その家には大学生の真一がいて、咲子は淡い恋心を抱く。転校先の学校で「ミスめがね」とあだ名をつけられた咲子は、委員長で人気者の香川留美の隣の席に。一方、真一は留美の家庭教師をしており、留美が気になっている。 それを咲子が知ってしまい……。作者最初期のラブロマンス。

ラグリマ

『りぼんコミック』(集英社) 1970年9月号

1821年のドイツ、謝肉祭でにぎわう村から5歳のマリアは売られていった。家畜のように扱われるうちに、いつしか故郷や家族を忘れてしまう。様々な場所で働いてきた彼女を慰めたのは、忘れてしまった故郷につながるラグリマという音楽だった。幸薄い少女の一生を描いた短編。

白い部屋のふたり

『りぼんコミック』(集英社) 1971年2月号

両親を亡くした少女・レシーヌが寄宿舎で出会ったシモーンは、不良な態度の裏に孤独な感情を秘めていた。どうしようもなくシモーンに惹かれていく自分に気づくレシーヌだったが、世間から認められない関係性に葛藤する。女性の同性愛をテーマに描いた作品。

赤い髪の少年 原案:ジュール・ルナール『にんじん』

『別冊セブンティーン』(集英社) 1973年5月号

赤い髪とそばかすのために「にんじん」と蔑まれ、虐待され続けたステファヌ。そこに、都会からおじのエマニュエルがやってきて……。ジュール・ルナールの自伝的小説『にんじん』を山岸流の解釈でコミカライズした本作は、機能不全家族の闇と救済を描く。

レフトアンドライト

『りぼんコミック』(集英社) 1969年5月号

山岸のデビュー作。左(ひだり)の通う中学校に、右腕が不自由な少女・右近(うこん)が転校してくる。卓球部に所属する左は、右近が事故にあう前は卓球をやっていたことを知り、彼女を立ち直らせようと、ダブルスを組もうと持ちかける。二人は勝利を掴むために猛練習を重ね、絆を深めていく。

Theme 2 神話と御伽噺の世界

1970年代を中心に、山岸はギリシャ神話や西洋に伝わる御伽噺、伝承をタイトルに冠した短編を多数発表している。「ティンカー・ベル」(1973年)や「ラプンツェル・ラプンツェル」(1974年)が少女漫画らしい少女の成長譚として描かれる一方で、「ハーピー」(1978年)や「スピンクス」「メデュウサ」(ともに1979年)では、精神の歪みや狂気が伝説の怪物のイメージに託される。こうした作品群において、神話や伝承といったモチーフは単なる物語の枠組みにとどまらず、人間の内面を可視化する装置として機能している。

また、連載作品「妖精王」は、山岸の故郷・北海道を舞台に描かれたファンタジー活劇。妖精国の王の生まれ変わりとして覚醒した少年・爵が国の危機を救うべく立ち上がる姿を描いたハイ・ファンタジーで、ジャンル問わず後進に大きな影響を与えた。

ティンカー・ベル

『デラックスマーガレット』(集英社) 1973年 秋の号

美しい母と姉妹のなかで、醜いアヒルの子とさげすまれ育ったダフニーは、4歳の時に妖精ティンカー・ベルに出会った。ティンクと名付け、ティンクのみを友として成長したダフニーに、同級生の兄、ギーが近づいてくる。しかしギーに心を許したダフニーにはティンクの姿が見えなくなってしまう。不器用な少女の成長譚。

ラプンツェル・ラプンツェル

『別冊少女フレンド』(講談社) 1974年6月号

植物学者のオクターヴ=フィエは、調査のために塔のある館、メロバック邸に滞在することになった。ある日不思議な声が聞こえてきて、塔の上にいる長い金髪の美しい少女に出会い、一目で心を奪われてしまう。しかしメロバック夫人は即座にオクターヴを追い出そうとする。グリム童話を下敷きに母と娘の関係を描くオリジナルの物語。

幸福の王子

『月刊プリンセス』(秋田書店)1975年1月号

ロンドンですさんだ生活をしていたマーティンは、16歳で富豪に嫁いだ幼馴染コンスタンスが破産を苦に自殺していたことを新聞で知った。彼女を偲び屋敷へ赴くと、そこにはコンスタンスそっくりの少年がいた。その子の面倒を見る中でマーティンだけでなく、周囲の人も優しくなっていった。童話の『幸福な王子』を思わせる、切ないオリジナルの物語。

クリスマス

『月刊プリンセス』(秋田書店) 1976年1月号

両親が離婚し、親戚の家を転々としていたジョルジュは、7歳の雪降る日にアイオワ州のフォーク家にたどり着く。ジョルジュに温かく接してくれるのは四十過ぎのミス・スックだけ。しかし彼女もまた、フォーク家の中で虐げられ続けていて……。

シュリンクス・パーン

『月刊プリンセス』(秋田書店) 1976年5月号

2作目の創作に苦悩する新人小説家・オシアンは、半ば担当編集から逃れるように叔父の屋敷を受け継ぐ。遺書には「必ずそこに住み、パーンを1匹飼育すること」と書かれていた。「パーン」とは、髭の生えた人間の顔に山羊の耳、山羊の脚を持つ牧神。人里離れた屋敷で飼われていた「パーン」とは――?

メタモルフォシス伝

『花とゆめ』(白泉社) 1976年5月20日号(10号)–10月20日号(20号)

「全国の高校の受験生よ!転身せよ!!」――医者の家に生まれ、親の勧めで名門受験校にギリギリで滑りこんだ大西久美は、勉強漬けの学生生活に疲れていた。そこに現れたのは、転入生の蘇我要。マイペースで素直な要の言動に、凝り固まった受験生たちは翻弄されて……。山岸作品としては異色の正統派学園青春ストーリー。

パニュキス

『花とゆめ』(白泉社) 1976年12月20日号(24号)–1977年1月5日号(1号)

フランス革命時代の詩人、アンドレ・シェニエの詩から着想を得た短編。賢く美しい兄妹・ハリーとネリーは、学校に行かず本を読みふけり空想の世界に遊んでいた。しかし成長し、兄のハリーは別の学校へと進むことになる。子ども時代の純粋な黄金の心を持ち続けるネリーは、ハリーから距離を感じるようになって……。

妖精王

『花とゆめ』(白泉社) 1977年5月5日号(9号)–1978年11月5日号(21号)

北海道に病気の療養のために引っ越してきた爵(ジャック)がクーフーリンと出会い、妖精王の生まれ変わりとして覚醒する。邪悪な魔女クイーン・マブの支配を受けようとしていた妖精国(ニンフィディア)を救うため、爵は仲間とともに冒険の旅に出る。異色のファンタジー活劇。

ハーピー

『プチコミック』(小学館) 1978年12月号増刊

進学校に現れた季節はずれの転入生の登場により、すっかり調子を崩していた主人公。成績を落としていくなかで、転入生から不思議な“香り”を感じるようになり……。タイトル「ハーピー」とはギリシャ神話に登場する半人半鳥の女性の精霊。「略奪者」という意味もある。

スピンクス

『花とゆめ』(白泉社) 1979年10月20日号(20号)
誰もいない、何もない魔女の館にとらわれた“僕”のところに日ごと訪れるスピンクス。いつものなぞかけに答えられなければ食べられてしまう。逃げられない地獄のような日々のなか、魔女の館に変化が訪れる。僕をアースキンと誰かが呼ぶのだ。スピンクスに気づかれたら食べられてしまうのに。果たして僕は救済されるのか。

メデュウサ

『別冊奇想天外』(奇想天外社) 1979年9号

メデュウサは蛇の髪を持ち、その姿を見たものを石に変えてしまう怪物。今日も様々な人を石に変えてきた。しかし、家には彼女の姿を見ても石にならないニコラがいた。ニコラといるときだけは人間に戻れるのだが。神話の怪物になぞらえて人の心の内面を描き出す秀逸な短編。

黒のヘレネー

『花とゆめ』(白泉社) 1979年6月5日号(11号)
ギリシャ神話の“パリスの審判”に端を発するトロイア戦争。その中心にいる絶世の美女ヘレネーにまつわる物語を描いた漫画。美しく誰からも愛されるヘレネーと、醜く誰からも愛されない姉のクリュタイムネストラを対比させ、神話を作者一流の心理ドラマとして再解釈した作品。

ダフネー

『プチフラワー』(小学館) 1981年冬の号

心因性の問題を抱えたソニアは、蔦の絡まるマダム・ペクールのホテルに休養のためにやってきた。そこには訳ありげな常連の人々が滞在している。ある夜、ソニアの部屋に突然不審者が入ってきた。だが誰もそんな不審者は見なかったという。このホテルは何かが妙だった。ミステリータッチで人の心の闇に迫る短編。

奈落 タルタロス

『月刊Asuka』(角川書店)1988年2月号

金髪碧眼の美しく聡明な姉のデルフィーヌ。ブルネットで灰色の目をした妹のエブリーヌ。それ以外の容姿は瓜二つな姉妹だが、その運命は大きく違い、人々の注目は常にデルフィーヌにあった。姉に対する嫉妬と羨望が引き起こす悲劇と、心理ドラマの短編。

パイド・パイパー

『you-all』(集英社) 1991年Vol. 3

夫の転勤に伴って住むことになったのは、幼い頃住んでいたM市。23年前の忌まわしき記憶を呼び覚ますように、隣のS市で子どもが行方不明になる事件が起こる――。「パイド・パイパー(まだら服の笛吹き男)」は「ハーメルンの笛吹き」に登場する男。近くにいるはずなのに姿の見えない誘拐犯の恐怖が描かれる。

ブルー・ロージス

『you-all』(集英社) 1991年Vol. 7

イラストレーターの川田黎子は、幼い時から優秀な妹と比較されて育ち、自己肯定感が低い。30歳を前に二つ年下の編集者、中嶋和久と恋に落ち、愛される喜びを知った。自分に自信が持て、これまでと世界が変わって見えた。しかし、中島との関係は破局を迎えて、傷心の黎子は思い出を繰りながら自己を振り返る。女性の心の自立をさわやかに描く短編。

メディア

『amie』(講談社)1997年3月号

大学生の有村ひとみは、両親が不仲で、父親は家を出て母親はひとみに依存して暮らしている。ひとみは、母に感謝しつつもその執着から離れようと、母に内緒で留学の準備を進め自立への道を歩み始めるが、母親にそのことを気づかれてしまう。ギリシャ神話のメディアの名をタイトルに、母性の狂気と悲劇を描く短編。

Theme 3 「日出処の天子」で拓いた新しい境地

「日出処の天子」は、1976年に『花とゆめ』(白泉社)の姉妹誌として創刊した『LaLa』に1980年4月号から約4年に渡り連載された山岸の代表作だ。飛鳥時代を舞台に厩戸王子(後の聖徳太子)が謀略渦巻く朝廷の覇権争いにおいて頭角を現していく政治劇で、山岸が描き出した妖艶な美少年(美青年)としての太子像は、多くの人が漠然と抱いていた「一万円札の人」というイメージを大きく変えるものだった。

特別な能力を持つが故の孤独、そして臣下である蘇我毛人(蝦夷)への報われない想いに身を焦がす厩戸王子の苦悩──その濃密で劇的な人間ドラマは、当時の少女たちを熱狂させ、センセーションを巻き起こした。

日出処の天子

『LaLa』(白泉社) 1980年4月号–1984年6月号

飛鳥時代、中央集権国家づくりに貢献し、仏教文化を積極的に取り入れた叡智の人物として知られる厩戸王子(後の聖徳太子)の半生を描いた歴史ドラマ。美しい容姿と超人的な能力で他を圧倒していく厩戸の政治的手腕と、側近の蘇我毛人との愛憎入り交じる関係性の行方に当時の読者は熱狂した。

馬屋古女王

『LaLa』(白泉社) 1984年11月号
『月刊Asuka』(角川書店) 1985年8月(創刊号)- 9月号
「日出処の天子」のスピンオフ作品。偉大な父・聖徳太子の死後、遺された王子・王女たちの前に秘匿されていた娘・馬屋古女王の存在が明らかになる。父譲りの妖艶な美貌を持った馬屋古女王をめぐり、やがてギリギリの均衡を保っていた朝廷の力関係(勢力図)が崩れていく……。

Theme 4 異界への扉──現実の臨界点

山岸の短編作品には、日本の昔話や民間伝承に着想を得て、現実と非現実の境界、あるいはこの世とあの世の狭間を描いたものが多く見られる。そこでは、日常は決して閉じた世界ではなく、“異界”と連続する脆い均衡の上に成り立っているものとして捉えられている。

「雨の訪問者」(1979年)のように時空を越えた邂逅を穏やかに描く作品がある一方で、「汐の声」(1983年)や「白眼子」(2000年)では、“視える”ことを宿命づけられた人間の悲劇や苦悩が描かれる。また、「黄泉比良坂」(1983年)や「私の人形は良い人形」(1986年)においては、この世にとどまり続ける強い念が、境界を越えて現れる。

これらの作品に通底するのは、人間の業や欲望、そして精神と肉体の連続性へのまなざしである。異界とは外部に存在するものではなく、人の内側に潜むもの──山岸はその臨界点を鋭く可視化しているのである。

ひいなの埋葬

『花とゆめ』(白泉社) 1976年3月20日号(6号)

弥生(やよい)が16歳を迎えた春、曾祖父が入婿したという旧家の雛祭りに招かれる。現在その家を継ぐ者は、現当主の老婆と、弥生と同い年の美少女・静音(しずね)の二人のみ。しかし、夜中に目覚めた弥生が屋敷の中を歩いていると、「シズオ」と名乗る美形の男性がいて……。耽美と因習とが渦巻くミステリーホラー。

夏の寓話

『月刊セブンティーン』(集英社) 1976年8月号

夏休みを満喫しようとしていた澄生は、H市の知人宅で2週間の留守番を申しつかる。H市のうだるような気候のなか、頻繁に出会う少女がいた。澄生は、少女がどこに住んでいるのか、なぜ夏の街をさまよい歩いているのかが気になり始め……。漫画表現としての「夏の閃光」が読者の心を射抜く。

雨の訪問者

『月刊セブンティーン』(集英社) 1979年7月号

40歳で独身の糸井久仁子は、市役所に勤めながら独身生活を十分満喫していた。しかし人付き合いをせず、結婚しない女を世間は冷ややかに見ていた。ある雨の日帰宅すると、ベルと名乗る少女が待っていた。久仁子とずっと一緒に住んでいると主張するベルに戸惑いながら、久仁子の運命が転換してゆく。心温まるストーリー。

汐の声

『プチコミック』(小学館)1982年11月号–12月号

17歳の佐和は、テレビにも出演する霊感少女。雑誌のオカルト企画で霊能者たちと無人の屋敷に泊まる。大量の包み紙や歩く子ども、汐の音などの怪異を見続けるが、「やらせ」と嘲笑され信じてもらえない。恐怖と孤立に追い詰められる佐和と、彼女を信じず彼女に圧をかける大人たち―虚構と現実の乖離が心を蝕む怪異譚。

あやかしの館

『プチコミック』(小学館)1981年6月号

葵は東京の高校に通うため、叔母・由布子のもとで暮らすことになる。洋館と聞いていた家は簡素で奇妙な佇まいをしており、家電の故障や無人のはずの扉の開閉など不可解な現象が絶えない欠陥住宅だった。しかし由布子は気にも留めず、どこか呑気に振る舞う。日常に潜む不思議と可笑しさを描いた怪奇コメディ。

籠の中の鳥

『プチフラワー』(小学館) 1981年9月号

トリと呼ばれる一族に生まれながら、融は飛ぶことができない。盲目ながら「飛ぶ」ことで生計を立ててきた祖母は、今際に「今ならお前でも飛べるかも」と告げる。濃密な関係の輪から抜けだせずにいた少年が、外の世界で手に入れたのは……?

鬼来迎

『DUO』(朝日ソノラマ)1981年11月号

都会生活に疲れた敏子は、海辺の家に住み込みで働き始める。そこには奇声をあげ、左手首のないやせ細った少年が暮らしていた。家政婦から庭の石を動かせば鬼が来るという言い伝えを聞いた敏子は、やがて地の揺れとともに起こる異変に直面し、恐るべき光景を目にする。怪異に触れた人間の恐怖を描いた物語。

八百比丘尼

『プチフラワー』(小学館)1982年9月号

東京に上京した女子高生・江崎は、孤独と倦怠に沈む日々の中で、美しい少女・八重子と出会う。招かれた海辺の家には若く麗しい母と叔母が住み、歓待されるが、やがて江崎の体調に異変が現れる。人魚の肉と不老不死の伝説「八百比丘尼」を背景に、少女の魅惑と不穏、違和感と恐怖がゆっくりと滲み広がる怪奇譚。

黄泉比良坂

『ボニータ』(秋田書店) 1983年10月号

日本神話に記された、現世と黄泉の間にある坂の名を冠した短編作品。物語は一人の女性が深い闇の中で目を覚ますところから始まる。身動きが取れず、記憶も曖昧になっている自分にパニックを起こすが、ある瞬間聞こえなかった音が聞こえ、見知らぬ風景が目に飛び込んでくる。この女性に何が起きたのか?

千引きの石

『ぶ~け』(集英社)1984年9月号

『古事記』に登場する千引きの石は、千人の力で引くことのできる石で、あの世とこの世を隔てる境界とされる。東京から転校してきた可南子は、裏庭にある誰も使わぬ体育館に違和感を覚える。戦前に建てられたその建物には人影が見え、導かれるように足を踏み入れた可南子は、やがて異界の気配に触れていく。境界をめぐる怪異を描いた短編。

天鳥船

『プチフラワー』(小学館) 1985年1月号

高校受験で二浪した和也は、睡眠薬で自殺を図るが思いとどまり家へ帰ろうとした。しかし薬で朦朧とし崖から落ちてしまう。大けがをした和也は旅館の老人と口のきけない美少女に助けられた。この旅館は何か奇妙でいつも大勢の客が来ているのだが……。日本神話をタイトルにかかげた命をめぐる物語。

時じくの香の木の実

『月刊Asuka』(角川書店) 1985年10月号

8歳を迎えた日向(ひゅうが)と日影(ひかげ)は、一族に見守られるなか、特別な果実を口にする。それは、どちらか「選ばれた者」が永遠に歳を取らなくなるという不思議な力を秘めたものだった。やがてふたりは異なる体験を重ね、役割や在り方が大きく変化していく。見えるものと見えざるもの、そのあわいに潜む神秘と人間の業の深さを描く物語。

わたしの人形は良い人形

『月刊Asuka』(角川書店) 1986年2月号 –4月号

戦後の東京、竹内家に届いた市松人形は母から子へ受け継がれる。隣家・野本家の娘、初子の死の際に燃やしたはずの人形はなぜか残されていた。時を経て初子の姪、その子どもの陽子が怪異に見舞われ、人形に宿る怨念が浮かび上がる。「わたしの人形は良い人形」……童謡の旋律とともに、可憐できれいな人形をめぐる戦慄の物語。

着道楽

『別冊プリンセス』(秋田書店)1993年8月25日号

雨上がりの町の小道をひとり歩く和装の女性。見覚えのある道を歩くうちに、彼女はかつて自身を彩った様々な着物を思い出し、その柄や着こなしに込めていたこだわりに想いを馳せていく。着物を愛する「着道楽」の女性の視点を通じ、細やかな着物コーディネートの妙を伝える作品……かと思いきや、予想外の展開が待ち受ける。

雨女

『ネムキ』(朝日ソノラマ)1994年Vol. 17

実際に起こった事件をもとに創作された漫画。言葉たくみに女性たちを虜にしてきた三田数良(みたかずよし)。物語は彼の妻の視点で展開する。自分は雨女で男運がなく、数良は晴れ男で金運がない、だからこそ理想のカップルになると結婚生活を期待していた妻。だが次々現れる女の影に悲しみながら男のそばを離れられずにいた。罪と罰、男女の因果描く短編。

鬼

『月刊コミックトム』(潮出版社) 1995年10月号 - 1996年1月号

天保の大飢饉における凄惨な場面から物語は始まる。時は現代に移り、美大サークル「不思議圏」の7人は岩手県・広林寺で合宿を行うことになる。しかしそこは、土地の人がなぜか忌み嫌う寺であり、やがて彼らも子どもの泣き声とともに不気味な現象にとらわれていく……。

白眼子

『月刊コミックトムプラス』(潮出版社) 2000年5月号 –9月号

戦後間もない小樽で戦災孤児の「わたし」は、運命観相という見えないものを視る力を持つ盲目の男・白眼子に拾われ、「光子」と名づけられる。その力を理解できぬまま育つ光子だが、「幸と不幸はみな等しく同じ量」という白眼子の言葉が光子の胸に深く残る。人の運命と生の在り方が静かに浮かびあがる物語。

艮

『モーニング』(講談社) 2014年1月9日2・3合併号–2月6日6号

艮は十二支で丑と寅の間、すなわち北東を指し、陰陽道では鬼門とされる。物語は正体不明の脱獄犯の逃走の場面から始まる。一方、出版社勤務の晶子は、霊能者を取材した際、家の鬼門を言い当てられ、不可解な怪我や出来事に悩まされるようになる。現実と霊的世界の交錯を描く怪奇譚。

時計草

『ビッグコミック』(小学館)2018年6月25日号(12号)

「はい時間です」と差し出される花の夢を見て目が覚めたA子は、公園のベンチに寝ていた。家に帰ろうとするA子の前に次々と懐かしい人が現れる。お稽古先の親切な知人、学校の先生。その人達の思い出を振り返るとまた同じ公園のベンチに戻ってきてしまうのだった。時間と空間のループに取り込まれた人の物語。

Theme 5 「家族」という制度

「家族」という関係性もまた、山岸が様々な作品において繰り返し描いてきた重要なテーマである。とりわけそこに表れるのは、家族という共同体に内在する不均衡や抑圧である。

「天人唐草」(1979年)は家父長制の犠牲となった女性の悲劇を描いた作品で、短編ながら読者に強い余韻と衝撃を残す傑作。また、「常世長鳴鳥」(1985年)や「木花佐久毘売」(1986年)では、『古事記』の逸話を下敷きに、親が子どもを等しく愛しえないという哀しい構造が露わになる。

山岸は、家族を無条件に肯定される場としてではなく、社会制度として歴史的に形成されてきたものとして捉え直している。そのまなざしは、日本の伝統的な家族観が持つ歪みや不条理を鋭く問い直す。

ドリーム

『LaLa』(白泉社) 1978年2月号–3月号

岡元由子(おかもとゆず)は、母の再婚でクラスメイトの周防薔子(すおうしょうこ)の従妹となった。冬休みになり旧家の周防家の一族が住む見事な西洋館へ招待され、そこで、優雅で美しい丹穂生(におう)に出会う。由子は夢のような時間を過ごすが、少しずつ館の奇妙な人間関係に気づいていく。丹穂生の優雅さに潜む秘密は?人の無意識の闇に迫る短編。

天人唐草

『週刊少女コミック』(小学館)1979年1月20日号(2号)

響子は、道ばたに咲く青い花に心惹かれる。友人から聞いたその花の名を両親に告げると、母からは「天人唐草」と呼んだ方がいいと諭され、父からは叱られることに……。日常に潜む狂気と、いびつな家族関係を描いた。本作は山岸の創作活動のターニングポイントとなった。

狐女

『ビッグコミックフォアレディ』(小学館) 1981年4月号

9歳の少年・理(まさる)は、「イナリ屋敷」と呼ばれる豪邸に引き取られる。住まう人々の複雑な関係を知り尽くし、生きるために賢く立ち回る日々。そんな理は、敷地内にある社に美しい女性が住んでいることに気づき……。他人を信用しない主人公・理のモノローグと鋭い眼光は、同時期に執筆されていた「日出処の天子」に繋がる。

夜叉御前

『プチコミック』(小学館)1982年4月号

山奥の古い一軒家に一家で越してきた「わたし」は、家に漂う異様な気配を感じ取る。不慣れな生活をしながら、恐ろしい女の顔、謎の黒い物の出現により、孤独と不安に苛まれる日々が続く。家族を思い、苦しみに耐える中、自身の体調悪化とともに怪異は激化していく。日常に潜む異形の鬼の恐怖を濃密に描く怪奇短編。

海の魚鱗宮

『プチフラワー』(小学館)1985年4月号

父の十三回忌で娘・和美とともに帰省した寿子は、海を前に幼少期の記憶を呼び起こす。家族を嫌っていた理由を思い出せないままだったが、少女の幻影や和美のふるまいを見るうちに夢に現れた帽子の少女の存在がよみがえる。記憶を辿るうち、寿子は海に導かれてきた自身の過去と、隠されていた真相に触れることになる。

常世長鳴鳥

『グレープフルーツ』(新書館) 1985年21号

日本で最初に鶏が文献に現れるのは『古事記』で、常世長鳴鳥は天照大御神が天岩屋戸に籠った際に集め鳴かせた故事に由来する。物語は水死した姉・花影(はなえ)の捜索のなか、祖母が雄鶏の亡骸を見つける場面から始まる。病弱で美しい姉に家族の愛情は集中し、妹の雪影(ゆきえ)は疎外され嫉妬を募らせる。美醜と愛憎の闇を描いた作品。

神かくし

『月刊Asuka』(角川書店) 1985年11月号–1986年1月号

藤堂主計(とうどうかずえ)は江戸での務めを終え、4年ぶりに故郷に戻った若き郡奉行(こおりぶぎょう)。彼は幼い頃に弟の京也を「神隠し」で失っており、その時のことを未だに忘れられずにいた。そんな折、墓参で訪れた菩提寺で主計は、瀬ノ尾千冬と名乗る弟と同じ歳の若者との数奇な出会いを果たす。

木花佐久夜毘売

『月刊Asuka』(角川書店)1986年6月号

タイトルの木花佐久夜毘売は、その美しさゆえ瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の妃となったが、醜い姉・石長比売(いわながひめ)は退けられた記紀に由来する。姉の朔耶はその名を負う秀才で、妹・典子は姉に進路を決められ、姉との差を見せられながら暮らす。やがて姉の同級生との出会いを通じ、典子は次第に自らの在り方を見つめ直していく。

月読

『月刊Asuka』(角川書店) 1986年8月号

天照大御神(あまてらすおおみかみ)、月読命(つくよみのみこと)、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)の三貴子(みはしらのうずのみこ)をモチーフにした日本神話もの。姉の天照に思慕の情を抱きつつ、忠実な僕(しもべ)として仕える月読。同じ弟でありながら自分は疎まれ、須佐之男が可愛がられることに煩悶の日々を過ごす彼は、ある日、天照から保食神(うけもちのかみ)への遣いを頼まれるが……。

鳥向楽

『月刊Asuka』(角川書店)1986年11月号

人間の上半身に鳥の下半身を備え、極楽浄土で天楽を奏でるとされる神話上の生物「迦陵頻伽(かりょうびんが)」を主役とする幻想的な作品。衆生に法を説く仕事を忘れて罰を受けた、ひとりの迦陵頻伽の視点から如来や菩薩といった仏たちのことが語られていく。ひとつの物語の各節を、音楽の楽章として区切るユニークな構成が取られている。

鏡よ鏡…

『ぶ~け』(集英社) 1986年10月号

14歳の雪の母親は美貌の売れっ子女優。7人の恋人にかしずかれる女王のような母に対し、白い肌だけは似たもののぽっちゃりした体型の雪は中学校でもいじめられっ子だ。ある日、母の最初の恋人だったという大物紳士との出会いを機に、雪は母の真実に気づくことになる。歪んだ母娘関係と心理的葛藤を描いた物語。

グリーン・フーズ

Part1:『月刊Asuka』(角川書店)1987年9月号

Part2:『月刊Asuka』(角川書店)1987年11月号

子役スターで天使のようなトビーと兄を崇拝する妹のさえないマーシャ。家族はトビーを中心に回っていたが、声変わりによって芸能界の栄光を失った。しかしマーシャがたぐいまれな歌声の持ち主と分かり、トビーとマーシャの兄妹デュオとして再起をはかり成功するのだが、兄妹の間にあるゆがんだ愛情と嫉妬はやがてマーシャの体を蝕んでいく。残酷な心理劇。

Theme 6 新時代のバレエ漫画

「アラベスク」以後、「牧神の午後」(1989年)や「黒鳥―ブラックスワン」(1994年)などバレエ史に名を残す実在の人物を題材にした短編作品を発表していた山岸だが、2000年代に入り、改めて本格的な長編バレエ漫画「テレプシコーラ/舞姫」(第1部:2000-2006年、第2部:2007-2010年)の連載に着手する。

「アラベスク」完結から四半世紀の時を経て、日本のバレエの水準は欧米と肩を並べるほどになっていた。山岸は、物語の舞台をヨーロッパから現代日本へと移し、バレエに人生のすべてをかける少女たちを再び鮮やかに描き出す。

主人公・六花をプリマドンナではなく、コレオグラファー(振付家)として位置づけたことも特筆すべき点だ。踊り手の身体性のみならず、創造する視点へと踏み込んだ本作は、21世紀のバレエ漫画として新たなメルクマールとなった。

牧神の午後

『ぶーけ』(集英社) 1989年11月号–12月号

20世紀初頭、時代の最先端をいくバレエ・リュスで活躍した天才舞踊家ニジンスキーは、ディアギレフのもとパリ公演で観客を魅了する。跳躍と表現で名声を高めるなか、ドビュッシーの『牧神の午後』を自ら振り付け、その前衛的な舞台は賛否を巻き起こす。芸術の極限を追い求めた孤高のダンサーの生涯を描く実在の人物を基にした物語。

黒鳥―ブラック・スワン

『セリエミステリー』(白泉社)1994年4月号

ロシアから亡命してきた天才振付師・ミスターBのもとで、バレリーナとしての名声と不自由のない結婚生活を手に入れたマリア。しかし、古典の「白鳥の湖」、さらには第一幕の白鳥・オデットしか躍らせてもらえない。そして彼の目の先には、若く才能あふれるバレリーナの姿が……。心の底に渦巻く嫉妬の念は、マリアをある場所へと導く。

テレプシコーラ/舞姫

第1部『ダ・ヴィンチ』(メディアファクトリー) 2000年11月号–2006年11月号

第2部 2007年12月号–2010年10月号

バレエ教室を営む母のもと、将来を嘱望された姉・千花(ちか)とは対照的にのんびり成長した妹の六花(ゆき)。しかしある転校生との出会いにより、バレエの明と暗を知ることになり……。“ 表現の高み”を目指す少女たちの成長と苦悩、肉体の限界などをひりひりと描き出す。第11回手塚治虫マンガ大賞受賞作。

ヴィリ

『ダ・ヴィンチ』(メディアファクトリー)2007年1月号 - 9月号

ロマンチック・バレエの最高峰『ジゼル』のプリマに決まった東山礼奈。IT企業の社長・高遠和也をパトロンに得て、着々と公演の準備は進んでいくが、その舞台となるHホールには“ある噂”があって……。『ジゼル』に登場する未婚の精霊・ウィリーを思わせるような、せつない愛が描かれる。

言霊

『BE・LOVE』(講談社) 2013年2月15日号(4号)–3月15日号(6号)
「私は偽善者」――プロバレリーナを目指す澄(さやか)は、前年のコンクールで失敗して以来、周囲の些細な言葉に翻弄されるように。メンタルの弱さを克服するため、様々な方法を試みるが……。言葉と身体の密接な関係性を、主人公・澄のモノローグで表現する。

Theme 7 歴史に宿る神秘

「日出処の天子」以降、山岸は歴史的題材を扱いながら、そこに潜む神秘性や超越的な力へと関心を深めていく。

「ヤマトタケル」(原作:梅原猛、1986-87年)や「青青の時代」(1998ー2000年)といった古代日本を舞台とした作品では、史実すら定かではない遠い時代のなかで、歴史を創った人物と神的存在の関係性を描く。一方、「ツタンカーメン」(1994-97年)では、古代エジプトの遺跡発掘にまつわる不可解な現象を通して、長大な歴史に潜む不可視の力が示唆される。山岸は歴史を単なる記録としてではなく、決して解き明かされない神秘を備えたものとして捉えているのかもしれない。

その到達点が、近年で最も長い連載となった「レベレーション-啓示-」(2015ー20年)である。中世フランスの英雄ジャンヌ・ダルク伝説を取り上げた本作は、信仰と教会制度の狭間で散っていった一人の少女の生涯を丹念に描写した。

ヤマトタケル 原作:梅原猛

『月刊Asuka』(角川書店) 1986年12月号–1987年7月号

日本古代史に残る英雄・ヤマトタケルの生涯を描いた作品。双子の兄・大碓命を誤って殺めたがために過酷な蛮族討伐を命じられたヤマトタケルの、勇ましくも哀しい戦いが繰り広げられる。山岸作品ではやや珍しい筋骨隆々な肉体美を誇るヒーローが主人公である点にも注目したい。

ハトシェプスト

『セリエミステリー』(白泉社) 1995年10月号/Ⅱ 1996年4月号

古代エジプトの女性ファラオ、ハトシェプストにまつわる物語。泣き女のメヌウと、その妹で不思議な血止めの力を持つセシェンは、ある貴人の治療をきっかけにまだ王座に着く前のハトシェプストと出会い、王宮へと招かれる。時のファラオに戯れで予言を求められたメヌウは、ハトシェプストが王座に着く様子を幻視してしまい……。

ツタンカーメン

『LaLa』(白泉社)1994年7月号–1995年7月号

『月刊コミックトム』(潮出版社) 1996年5月号–1997年4月号

「我は汝を王と成さしめる者なり」。考古学者のハワード・カーターが、夢枕に立った黄金のサンダルの人物に導かれながらツタンカーメン王墓の発掘を成し遂げるまでを描いた、史実ベースの歴史ドラマ。この世に留まる魂「カー」を名乗る少年など、独自のミステリアスな人物を配置しドラマを盛り上げている。

イシス

『月刊コミックトム』(潮出版社) 1997年6月号–8月号

オシリスは王への即位にあたり、二人の妹のうちイシスを妻に迎えた。愛らしいネフティスに対して、イシスは白髪に赤い目のアルビノで病弱だった。オシリスはそんなイシスを顧みないが、イシスには不思議な力があった。古代エジプト神話を題材にしながら、人間の愛と欲望、権力闘争、復讐と運命を描いた作品。

青青の時代

『月刊コミックトムプラス』(潮出版社) 1998年5月号 - 2000年2月号

古代倭国のとある南の島で、気のふれた祖母とともに暮らす壱与(いよ)。厄介者扱いの日々を過ごしていた二人のもとに、ある日大和(ヤマタイ)の伊都(いと)国の男が海を越えて訪れる――。巫女王・日女子(ヒミコ)が統べる地を舞台に、王族の後継者争いと周辺国との紛争に巻き込まれる少女の、激動の運命を描く歴史ストーリー。

レベレーション -啓示-

『モーニング』(講談社)2015年1月15日4・5合併号–2020年11月12日48号

ドンレミ村に住む平凡な羊飼いの娘ジャンヌは、ある日天から与えられた「フランスへ行け、王を助けよ」という啓示に突き動かされ、フランス軍を率いて失地奪還の戦場へと向かう。やがて訪れる悲劇も知らずに……。英仏の百年戦争で、強い信仰心を胸に戦旗を振るった「ラ・ピュセル」ことジャンヌ・ダルクの生き様を描く。

Theme 8 エッセイ漫画や表紙の仕事

シリアスで緊張感に満ちた作風で知られる山岸だが、その一方で自らの日常を題材にしたエッセイ漫画を早くから発表しているのも大きな特徴である。それらの作品は茶目っ気とユーモアに溢れていて、また別の一面を感じさせる。

ここではその一部、自宅の建築にまつわる実話を基にした「ケサラン・パサラン」(2011-12年)と、幼少期に嗜み、40代で再開したバレエ教室通いをネタにした一連の作品から「瀕死の発表会」(2004年)を紹介する。

また、山岸は角川書店(現KADOKAWA)がティーン向けに創刊した漫画誌『月刊Asuka』の創刊号の表紙を手がけており、その後も華やかなイラストレーションでたびたび同誌の表紙を飾っている。

タイムスリップ

『COMICアレ!』(マガジンハウス)1993年11月20日号

比叡山をタクシーで下山中、同じ場所から抜け出せずにぐるぐると走り続ける不思議な現象を体験した作者が、ある時この話をすると実は他にも同じ経験をした人が続々と出てきた。果たしてキツネやタヌキに化かされたのか?どうやってその迷路から抜け出したのか?作者本人が体験した、時間と距離にまつわる不思議なお話。

瀕死の発表会

『ダ・ヴィンチ』(メディアファクトリー) 2004年9月号

47歳にしてバレエのレッスンを再開した作者と仲間たちの、トラブル続出、汗と涙の発表会。さあ、皆で『ドン・キ・ホ-テ』を無事踊り切れるか⁉舞台裏をユーモラスに描いたエッセイ漫画。

ケサラン・パサラン

『ダ・ヴィンチ』(メディアファクトリー) 2011年3月号– 2012年10月号

無鉄砲なイラストレーター兼エッセイストの由良子(ゆらこ)が、突如家を建てると言い出したことから物語が始まる。作者の体験をもとに、現代の家づくりの現実的な問題とどこか不思議な要素を、軽妙に描くコミカルな異色作。